1 サージ(surge)とは何か
サージとは、電力線・通信線・接地線などに瞬間的(マイクロ秒〜ミリ秒オーダー)に発生する、通常の使用電圧・電流を大きく超える過渡的な異常電圧・電流のことです。 持続時間が短いため「過渡現象(transient)」とも呼ばれます。
発生原因によって大きく2種類に分けられます。
雷サージ
雷放電に起因するサージ。直撃雷・誘導雷・逆流雷いずれの経路でも発生し、エネルギーが非常に大きいのが特徴です。
開閉サージ(スイッチングサージ)
遮断器の開閉、モーターやインバーターの起動・停止など、電気回路の急激な変化によって発生するサージ。雷サージよりエネルギーは小さいですが発生頻度は高めです。
2 雷サージと開閉サージの比較
| 比較項目 | 雷サージ | 開閉サージ |
|---|---|---|
| 発生頻度 | 低い(雷が発生した時のみ) | 高い(日常的な開閉操作で発生) |
| エネルギー | 非常に大きい | 比較的小さい |
| 立ち上がり時間 | 数µs程度 | ns〜µsオーダー(さらに速い場合も) |
| 主な対策 | SPD(クラスI〜III)、接地・ボンディング | SPD(クラスII〜III)、サージ吸収素子、スナバ回路 |
3 代表的なサージ波形
SPDの試験規格(JIS/IEC)では、サージを模擬するために標準化された波形が使われます。代表的な波形を比較してみましょう。
8/20µs 波形(電流波形)
波頭長8µs・波尾長20µsで立ち上がり、減衰する電流波形。誘導雷や配電線に侵入する雷サージ電流を模擬。SPDのクラスII試験(Inパルス)などで使用。
10/350µs 波形(電流波形)
波頭長10µs・波尾長350µsとエネルギー量がはるかに大きい波形。直撃雷の電流を模擬しており、クラスI試験(Iimpパルス)で使用されます。
※グラフは波形の形状イメージを示す模式図です(規格上の正確な数値波形ではありません)。
その他の代表的な試験波形
1.2/50µs(開放電圧波形)
サージの電圧波形を模擬。8/20µsの電流波形と組み合わせた「複合波(コンビネーションウェーブ)」として、SPDクラスIII試験に使用されます。
0.5µs/100kHz(リングウェーブ)
開閉サージを模擬した振動性の減衰波形。IEC 61000-4-12等で規定され、屋内配電系統でのサージ耐力評価に使われます。
4 サージの侵入モード
サージがどの経路で機器に侵入するかによって「ノーマルモード」「コモンモード」に分類されます。SPDの選定・設置にも直結する重要な考え方です。
電線と電線の間に発生
例:電源のL線とN線の間に発生するサージ。機器の入力段(電源回路)に直接ストレスを与えるため、電源回路の破損につながりやすいモードです。
電線と大地(接地)の間に発生
L線・N線がまとめて対地電位に対して跳ね上がるモード。誘導雷や接地電位の上昇(逆流雷)で発生しやすく、通信機器・LAN機器の絶縁破壊の主要因になります。
5 結合メカニズムとLPZ(雷保護ゾーン)
誘導雷サージが線路に乗る仕組みは、主に2つの「結合(カップリング)」で説明されます。
電磁結合(インダクティブカップリング)
雷電流の急激な変化が発生する磁界の変化により、近くのループ状の配線に誘導起電力(サージ)を発生させる。
静電結合(キャパシティブカップリング)
雷雲や雷電流による電界の変化が、静電容量を介して近くの導体に電圧変化を及ぼす。
IEC 62305では、建物内外を電磁環境の厳しさに応じてLPZ(Lightning Protection Zone、雷保護ゾーン)という概念でゾーン分けします。
LPZ 0
建物外部。直撃雷・全磁界の影響を受ける
LPZ 1
建物内部(引込口)。SPDクラスIで一次減衰
LPZ 2
室内区画。SPDクラスIIで二次減衰
LPZ 3
機器直近。SPDクラスIIIで最終減衰
各ゾーンの境界にSPDを設置し、ゾーンが内側に進むごとにサージレベルを段階的に下げていく設計思想が「多段協調」の理論的な背景です(詳細はModule 3で解説)。
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